SPECIAL

未来を創る 宇宙ビジネスの旗手たち

SPECIAL/特集記事

第1回

「宇宙ビジネス参入のタイミングは今!」
グローバル・ブレイン株式会社 青木英剛

インタビュアー
一般財団法人日本宇宙フォーラム 寺門和夫

寺門:青木さんは三菱電機株式会社 で「こうのとり」の開発をされていた背景をお持ちです。現在はベンチャーキャピタリストとして宇宙ベンチャー等に投資を行っていらっしゃるところから、今回は宇宙技術とビジネス両方の視点から、宇宙ビジネスへの参画についての将来性や新規事業立ち上げのポイントなどについて語って頂きたいと思っています。

青木:宇宙分野で起業したいと考えている方に、私は大きくわけて3つのことをアドバイスしています。
第1は、自分が宇宙のどの分野でビジネスを立ち上げるのかをはっきりさせることです。
現在、宇宙分野で「熱い」領域は地球観測、宇宙インターネット、宇宙旅行・エンタテイメント、そして月・惑星探査です。ただし、このうち宇宙インターネット(ブロードバンド)は莫大なお金がかかるので、ベンチャーの参入は非常に困難です。ナローバンドの通信インフラを提供する宇宙ベンチャーは比較的低資金で参入できますが、既に多くの企業が参入しており競争は激しいです。ですから、それ以外の3つの領域をまず考えてみるのがいいと思います。とはいっても、これらの領域にはすでにたくさんの企業が参入しているので、「超ニッチ(隙間)戦略」が必要です。つまり、まだ誰もやっていないビジネスを見つけることが大事なのです。
民間主導の宇宙ビジネスは生まれてから時間があまりたっていない新しい分野です。宇宙ビジネス全体で1万のビジネスモデルがあるとすれば、そのうちのまだ10か20のビジネスモデルしか確立されていないと私は考えています。ニッチだらけなのです。しかし、ニッチといってもビジネスが成功すれば、数百億円あるいはそれ以上の市場になる可能性があります。

青木氏

寺門:最近では、これまで宇宙に関係なかった分野の方が宇宙ベンチャーに興味を示しています。そうした方々にとっては、ニッチを見つけることは、なかなか難しいことなのではないでしょうか。

青木:そうですね。ですから、ニッチを見つけるための情報収集が必要です。しかしながら、宇宙に関する情報は分散していて、どこに行けば手に入るかがわかりにくいのが現実です。ですから私は、宇宙業界の人たちに積極的にアプローチし、今、どんな課題があるのかをいろいろ聞いてみることをおすすめします。宇宙ビジネスは成長真っ只中なので、課題だらけなのです。例えば、地球観測や宇宙インターネットビジネスを調べれば調べるほど事業推進で必要な小型衛星を打ち上げる専用の小型ロケットが不足していることが分かったりします。インターステラテクノロジズやスペースワンはまさにこの市場を狙っています。情報を集め、世界中のビジネスモデルを調べたら、次に自分が何を目指すかを徹底的に考えぬいて、戦略を決めなくてはなりません。

寺門:第2、第3のポイントは何でしょう。

青木:第2は、宇宙ビジネスはスタートから利益を生み出すまで、時間がかかることを認識することです。多くの宇宙ビジネスでは技術開発がともないます。スタートしてから数年で利益を出すのは非常に難しいのです。経営者も投資家も、5年、10年と時間がかかることを理解し、長い目で見ながら忍耐強く進めていくことが必要です。

第3は、日本でも起業のためのサポート体制が整いつつあり、それをフルに利用すべきだということです。アメリカやヨーロッパにくらべて、日本は宇宙ベンチャーを立ち上げるための環境づくりが遅れているという面も以前はありましたが、今ではそういったことはまったくありません。政府やJAXAが支援のためのさまざまなシステムを整備しています。宇宙ビジネスは政府との連携も必須ですので、そうした応援団を徹底的に活用すべきです。ただし、一方的に「教えてください」というスタンスではなく、自分なりにこのように考えてこのようなビジネスを考えているという仮説をしっかり持った上で相談に行ってください。

寺門:宇宙ベンチャーには、バイオやロボット、ITなどの分野とは異なる難しさもあると思いますが、いかがでしょう。

青木:宇宙ベンチャーには、宇宙ならではの難しさがあります。まず、事業に必要な技術を見つけ、それを手に入れるのが難しい。自動車や家電業界などと違い、宇宙技術はオープンになっていないので、真似することができないのです。そのため、土俵に上がるまでに多大な時間や労力がかかるのです。ですから、ベンチャーを誰と一緒にスタートさせるかが非常に大事になります。私は企業経営のプロであれば、宇宙技術のプロと組むことをおすすめしています。実際にアドバイス通りに創業して順調に進んでいる宇宙ベンチャーも数社あります。

未来に対するビジョンも必要です。宇宙に国境がないように、宇宙ビジネスにも国境はなく、最初からグローバルな世界です。宇宙ベンチャーを目指す人は、世界がこれからどうなっていくのかを把握し、その中で自分がどのような宇宙ビジネスを目指すのか、はっきりした青写真をもっていないといけません。

寺門:スタートさせた事業をいかに持続させるかも大きな課題になりますね。

青木:立ち上げの資金が得られてベンチャーをスタートさせても、1年か2年後には次のステージに進むための成果を出し、新たな資金調達をしなければなりません。その間にいろいろな問題もおこるでしょう。ですから、事業を持続させる強い意志が必要です。ベンチャーというものはまさにアドベンチャーで、トラブル続きです。ふと立ち返った時に、自分はこれをやりたいためにベンチャーをスタートさせたのだというコアな熱い思いがないと続きません。

青木氏寺門

寺門:日本での宇宙ベンチャーの可能性をどのようにお考えになっていますか。

青木:アメリカのコンサルタント会社が2017年に発表した統計によると、宇宙分野に投資した投資家数は日本がアメリカに次いで世界第2位になっているものの、その投資先の多くは海外の企業です。宇宙ベンチャーの数でいうと、日本は世界のトップ10に入っていません。しかし今、世界の宇宙産業は36兆円の規模になっており、宇宙ベンチャーの世界は大きく動いています。

これまでの宇宙開発は国主導でしたが、民間が入ってくると、宇宙をめぐるエコシステムができあがります。地球の生態系が循環しているのと同じように、ヒトやモノやお金、資源がぐるぐるまわり、さらに新しいビジネスチャンスが生まれてくる世界です。今まさに、そうしたエコシステムが宇宙ビジネスの分野でできあがりつつあります。日本で宇宙ベンチャーを起業するには、今が絶好のタイミングであると私は考えています。

PROFILE
プロフィール

グローバル・ブレイン株式会社
宇宙エバンジェリスト
青木英剛
(あおき・ひでたか)

三菱電機株式会社で「こうのとり」の開発を担い、その後ドリーム・インキュベータにて宇宙業界等のコンサルティングに従事、現在グローバル・ブレインにてベンチャーキャピタリストとして宇宙ベンチャー等に投資を行う。また、宇宙エバンジェリストとして一般社団法人SPACETIDEの創業など数多くの宇宙ビジネス活動に取り組む。 現在、S-Boosterのメンターも担っている。

インタビュアー
一般財団法人日本宇宙フォーラム
寺門和夫
(てらかど・かずお)

科学ジャーナリスト、一般財団法人日本宇宙フォーラム在籍 20年間以上にわたって科学雑誌の編集責任者をつとめたほか、多数の科学書籍の翻訳出版などに携わった。現在は科学ジャーナリストとして宇宙開発、航空技術、惑星科学、地球環境、エネルギー問題などの取材を続けている。

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